生産の基本論~ものづくりの達人になるためにおさえるべきツボ~【第9回 手の動き】
文責:ジェムコ日本経営 コンサルタント 原 正俊
皆さんは、「IE」という言葉をご存じでしょうか?IEは、Industrial Engineering の略称で「生産工学」などと呼ばれ、「生産性向上」と「原価低減」を行うものです。これからこの「IE」の考え方に関する情報をコラムでお届けしてまいります。
9回目の今回は、「手の動き」についてです。
目次
ベテランの人の手の動きはやはりムダが少ない
訪問した工場で手作業を改善すべく作業内容を観察していると、いろいろなことが見えてきます。特に手の動きに注目していると面白いことに気がつきます。
1つは、「慣れているベテランの手の動きはムダが少ない」ということ。スムーズに流れるように手が動くのは、作業の手順が完全にリズムになっているのでしょう。ほとんど目をつぶっていてもできるくらい習熟していると見ていて惚れ惚れします。
それに対して、慣れていない人の手の動きは遅いですし、ムダな動作が多いことがわかります。それはペースが掴めていないことと、作業の途中に迷いがあるからです。1つの作業が終わったら次に何をするのか完全に頭に入っていると手が勝手に動きます。しかしそれが頭に入っていない人は1回1回作業中に判断しているのです。「次はどうすべきか」「何を取ればいいのか」など、判断が作業中に入っていると作業のスピードが遅くなります。
解決のためには「判断が必要ないように作業改善する」
この解決の1つの方法は、「判断が必要ないように作業改善すること」です。
作業を分解して最初は単一の作業を繰り返させ、それに慣れてペースがつかめたらさらに1つの作業を追加するというステップで徐々に作業の数を増やしていくのです。
あるいは、作業のマニュアルも効果的です。また、それをすぐ見えるところに表示することが肝心です。作業している手元からできるだけ視線を動かさなくても見えるように工夫すると、視線の移動の時間が短縮され、効率化につながります。
判断基準をはっきりさせてあげることで、自分の作業の出来栄えを自分で評価できるようになれば一瞬迷うことも少なくなるでしょう。
手の動きで気になる「掴み直し」「持ち替え」
もう一つ、手の動きで気になるのが「掴み直し」や「持ち替え」です。
工具などのモノを取った時、取った位置や方向のまま作業できれば最もムダがありません。そのようにモノの取り方や位置・方向などの置き方を改善します。
右手で取ったものを左手に持ち替えることは、時間のロスになります。持ち替えのない作業方法に改善すべきです。右手で右側の材料を掴んで設備にセットし、加工の終わったワークを左手で掴んで左側に置く。これがもっとも自然なモノと手の動きです。
最も安定的な両手作業ができるように作業方法を改善することも大事
最も安定的な両手作業ができるように作業方法を改善することも大事です。両手が対照的に動くのが理想的ですが、それが無理でも片手作業を少なくすることが作業設計上大切な事です。片手が遊んでいるとロスを生みます。人は自然と「手を空かさないように」と持ち替えをしてしまいます。一瞬の動きなので気が付きにくいのですが、何回もビデオを見ているとよくわかるようになります。
材料を取るとき、目で見て掴む方向を判断していては時間のロスになります。ゴチャゴチャになっている材料ほど掴みにくく、取りそこねたりほぐしたりするムダが生じます。
「一個流し」は材料を取るロスが少ない方法
その意味で、一個流しというのは材料を取るロスが少ない方法です。いつも決まった位置に前の工程から1個だけ流れてくる。それが実現できればつかみ方も一定になり、目で見なくても掴めるようになります。
最適な手の動きになるように何度もシミュレーションして作業の位置や、設備の配置と方向、材料の位置と高さなどを検討することが作業の効率化につながるのです。