グローバル展開の現場から|海外でよくある問題と対応|第六回 知財問題について(その2)
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉
前回は、海外拠点で発生する知財問題と対策について述べた。今回は、進出前に検討しておくべき事項について述べることにする。特に、どの国で生産するか、また、生産する場合、知財という観点から生産方針を明確にしておくことが重要なのだが、意外にこのあたりが不明確というケースも多い。実際、コスト試算をする際、これらが明確になっていないとコスト見通しを大きく狂わせることになり、大きな目論見差異を発生させることにつながる。また、後任者に引き継ぐ際も、この知財問題について、しっかりと引き継ぎしておくことが大切と言える。以下に、これらのポイントを述べることにする。
◆生産方針を明確にする
先ず、進出する前に、進出候補国の知財問題の状況を把握することは大切なことだ。知財に対する意識が低い国や法律が未整備とも言える国では、ノウハウが流出し、模造品が出る可能性は高いからだ。知財の流出リスクの高い国では、それなりの対策が必須ということになるし、知財流出が経営面で致命的になる場合は、そのような国に進出すべきではない。
また、進出にあたっては、模造されては絶対に具合が悪いというものは、厳重な管理の下で生産する必要があり、外部に図面や仕様書、また、生産ノウハウが流出するというようなことのない生産体制を築く必要がある。当然のことながら、そのような製品の場合は、外注してもよい部品は何か、絶対に内製しなければならないものは何かを明確にする必要がある。
すなわち、どこで生産するかということも含めて、知財という側面から生産にあたっての方針を明確にして取り組むということだ。当然のことながら、このような製品については、金型の製作やメンテナンス等についても方針を明確にして進めることが必要だ。金型図面や金型構造がわかってしまえば、模造品は作れてしまうからだ。実際、金型の修理については日本で行なうことにしている企業もあるが、これらの企業では予備の金型を持つなど、金型面数も多く必要となる。
すでにお気付きだと思うが、実際、コスト試算をする場合は、これらが明確になっていないと、大きくコストが変わってくることになる。進出前のFS段階で、コスト試算は必須事項だが、その前提として、生産方針を明確にしておかないと、大きく目論見違いになってしまうということになりかねないのだ。
◆知財についての引き継ぎも重要
ところで、知財に対する意識が薄かったり、事前に明確に上記のような生産方針が示されていないと、出向者が交代したりした際に、問題を起こすケースが意外に多い。経営責任を担う出向者の立場であれば、当然、利益を少しでも多く確保するために、外注する方が安ければ外注化を推進するだろうし、また、設備や金型等についても日本に依頼するより、その国の業者に発注した方が安ければ、外注化を推進したりしてしまうからだ、こうなると、結果としてノウハウは流出することになってしまう。日本の場合は、外注化しても、今後の取引のこともあり、図面や仕様書、また、製造ノウハウ等が流出するケースは少ないが、海外の場合は、日本と同じような感覚で外注化等をすると、すぐに模造品が出回ることにつながることはよくあることだ。実際、金型屋に自社の新製品の金型の状況を確認しに行ったら、コンペチターの人が来ていたということもある。金型の写真を、こっそり撮って帰ったとしてもおかしくないし、少なくとも、自社の新製品情報はコンペチターに流れているということになる。
また、一つの部品くらい問題ないというケースもあるが、ビジネスモデルが、補修用のパーツで儲けるというビジネスだと、模造品が安く出回り、事業そのものが大打撃を受けるということにもなる。やはり、事前に絶対に模造されては具合が悪いものは何かを明確にして生産方針を決め、それを後任者にも引き継ぐということが大切ということだ。
◆意匠登録も抜けなく
日本で発売した商品のデザインが真似され、他国で発売されるということは多い。また、日本で発売と同時に、他国で自社商品のデザインが意匠登録されてしまい、その国で発売しようと思っていたものができなくなったという事例も多い。このようなことを防ぐためには、今後発売しようとする地域には、日本と同時に意匠登録をすることが大切ということだ。
ところが、意外に、このあたりの方針が不明確になっているケースがある。意匠はデザイン部門が管轄しており、発売する日本での登録は行なうものの、その商品が、今後、どの国で販売する計画なのかが明確にされておらず、どの国に意匠登録が必要かということが明示されていないという場合だ。
実際、日本で発売して市場性も高いので他国でも発売しようとしたら、すでに意匠権は他社が取得しており発売できないということが発生するのは、中期を含めたグローバル戦略が明確になっていないことに起因している場合が多い。特に、意匠権の場合は、少しデザインを変更してみても類似性があればOUTになるので、根本的にデザイン変更しなければならなくなってしまうケースが多いだけに、最初に、グローバル戦略を明確にして、意匠という視点でも抜けなく対策しておくことが重要と言える。
商標も同様だ。その国で発売しようとしたら、すでに自社のブランドが商標登録されていて、自社ブランドが使えないということもある。自社のブランドで発売しようとすると、商標を買い取る必要があるが、莫大な費用が発生することになってしまう。従って、商標についてもグローバル戦略を明確にして先手で登録しておくことが大切と言える。
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以上、知財について、進出前に検討しておくべき事項の一端を述べた。日本は技術立国と言われるように、正に新たな技術や工法を生み出すことで生き残ってきた。知財の大切さをしっかり認識し、知財を守るということを肝に命じてグローバル展開を図ることが大切だ。