日々挑むコンサル『五省』の呟き|第三回 なりたい自分になるための心構え『守破離(しゅはり)』
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 五省太郎
今回は、柔道や剣道等の武道の経験者には、馴染みのある言葉「守破離」をご紹介したいと思います。
『守破離(しゅはり)』とは、「道」を極めるための道筋を説いた言葉であり、その道で一人前になるための成長段階を「守の時代」「破の時代」「離の時代」という三段階に分け、その時代・段階にあった修行をする大切さ、心構えを示しています。
『守』とは、「師の教えを忠実に守り繰返し実行し、それを完璧に自分のものにする修行期間」
『破』とは、「師の教えとその実力に磨きをかけ、同時に独自の技を創意工夫する修行期間」
『離』とは、「創意工夫した技を洗練し完成させ、独自の技を極め、師から離れ自己の流派を創始する」
教わる側と教える側が、「守破離」の段階・時代を共有していることがポイントであり、その師弟関係により効果的かつ有効的な指導方法や成長を促せるというわけであります。特に教わる側は、師を信頼し、素直で謙虚な気持ちで「強烈に学びたい」という心がなければ成立しません。前回のブログで「啐啄同時」をご紹介しましたが、「守破離」も同様に教わる側と教える側双方が合致した教育機会・成長機会の姿勢や重要性を説いています。ちなみに、武道の場合は、「段位」があることにより、「守破離」の段階が「見える化」できているため、段位に応じた教わり方・教え方が自覚・共有でき、効率的・効果的な稽古・修行が行えるような仕組みになっています。あくまでも教える側は受身であります。
「守破離」は、ビジネス社会で言う「キャリアパス」と同様の概念であり、武道に限らず社会人としてのゴールを目指す段階のステップ・スペックを示し、共有することであり、とても重要な概念だと思います。補足すれば、キャリアパスとは、ある職位や職務に就任するために必要な一連の業務経験とその順序、配置異動のルートを言い、どの程度の習熟レベルに達すれば、どういうポストに就けるのか等のキャリアアップの道筋・基準・条件を明確化したものです。それにより、会社の目標や求める人物像・上司からの期待が分かり、また自分自身の成長の実感が得られ、モチベーションの向上、生産性の向上、技術伝承、会社への帰属意識の醸成という効果が大いに期待できるのであります。
最近、コンサルティングの現場において、人づくり・若手の育成・モチベーション向上・技術伝承等についてクライアント企業より、よく相談がありますが、前述した「キャリアパス」が人材育成制度として機能していない場合や、キャリアパス制度そのものが無い企業も見受けられます。雇用形態が多様化し、同時に個々人の仕事に対する価値観も多様化するなかでは、キャリアパスの制度設計が難しくなっているようです。人づくり・若手の育成・モチベーション向上・技術伝承においては「キャリアパス制度」が極めて有効と思われますので、機能しない・形骸化した「目標管理制度」と併せ、今の時代に合致した本当に機能する制度・仕組・運用の見直しが必要と実感しております。
さて、「守」の時代の修行期間は、ずばり『千日を初心とする』と考えます。「石の上にも三年」という言葉がありますが、年間250日稼動では4年になりますので、4年が「守」の時代ということになると思います。当社コンサルタントも先輩の鞄持ちからスタートして4年を目安に「モノになるか、どうか」を判断しています。経営コンサルタントを名乗るのは、弁護士や公認会計士等と異なり非常に簡単ですが、経営コンサルタントとしてクライアントから評価・支持され、やり続けることは容易ではありません。コンサルタント業界は、「UPorOUT」という掟があり、止むを得ない判断となっています。巷では、大卒の3年以内の離職率が高いという話を聞きますが、「守破離」を教えていないのでしょうか。どんな会社・どんな業務でも3年は歯を食いしばってでもやる意味はあると思います。
次に「破」の時代ですが、「守」の時代と併せて20年から30年位と考えます。なぜならば、筆者は経営コンサルタントとして15年目になりますが、毎日がピンチの連続であり、とても経営コンサルタントとして「奥義を極めた」という心境ではないからです。経営コンサルタントとしての「破」の時代は、クライアント企業のトップまたはそれに準ずる幹部との初接触から活動企画を策定し、実行し、そして期待されるアウトプットを出すまでを自己完結できることが最低条件となります。「破」の時代は、より多くの経験(案件)を積むしかありません。メーカーであれば部長職や執行役員クラスで過大なストレスにさらされている時代と思われます。同時に部下育成等の「人のマネジメント」をする立場になっている時代であり、プレイングマネージャーとしても労働密度も高く、責任も重いという一番きつい時代になっていると思います。
「離」の時代というのは、『万日から』と考えます。千日を4年として計算すると40年となり、大卒の場合60歳代の定年時にやっと「離」の時代に入れるか、その時にやっと目指していた自分(取締役以上)になっているか、どうかという感じではないでしょうか。ちなみに、剣道では早くて40歳代で七段受験ができ、50歳代で八段(最高位)の受験資格が得られますが、八段の合格率は1%に満たない超難関であり、公的資格では司法試験以上の難しさであります。その受験者の多くは10歳前後で剣道を始めていますので、ちょうど「万日」あたりで八段が受験できる計算になります。(ほとんどの人は八段にはなれないため「離」の時代には進めない=奥義が極められる人は極少数)
経営コンサルタントの人材育成および技術伝承は、実は「守破離」によって行っており、それにより当社も45年以上継続しているのであります。
今回のテーマは、「なりたい自分になるための心構え」ですが、ビジネス社会において自分一人では自己実現は難しいということを申し上げたかったのであります。前述したように経営者・上司の期待(の明確化)と自分自身の成長実感と共有(期待値に対する評価)の繰返し(サイクル)という組織的な制度運営により、人は成長していくのではないかと思います。また、同時にその「守破離」により技術伝承ができていけるではないかと思います。そのため、人づくり・モチベーション・技術伝承にお困りの企業は、「素直」「謙虚」「感謝」の心を前提とし、「守破離」を基軸とした制度・仕組・運用を再構築することをお勧めしたいと思います。
次回(#4)は「ムダは誰のためにもならない!?」について述べたいと思います。
第三話 了
*五省とは・・・
一、至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか(真心に反する点はなかったか)
一、言行に恥ずる勿かりしか(言行不一致な点はなかったか)
一、気力に缺(か)くる勿かりしか(精神力は十分であったか)
一、努力に憾(うら)み勿かりしか(十分に努力したか)
一、不精に亘(わた)る勿かりしか(最後まで十分に取組んだか)
昭和7年 海軍兵学校校長の松下元(まつしたはじめ)少将の発案。毎日の自習終了5分前に瞑想し、その日の自分の行動を省み、深く自己を見つめ、自省自戒したといわれている。つまり、他部門や他人のせい(他責)にしてはならないということ。コンサルタントの基本心得であり、「立派な人間」としての基本的な資質でもある。
【注記】守秘義務の関係もあるため、このコラム内容は、かなり一般的な話題に置き換え架空のものに編集しております。起こっている事象はよくある内容でありますが、内容の詳細については、ノンフィクションの読み物であります。予め、ご了承下さい 。