「知っているはず!やっているはず!」の落とし穴|第五回 意識改革と現状否定―その2
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 櫻内 康章
前回、管理・間接業務の改善・改革に取り組むアプローチとして特に重要な「意識改革」を取り上げましたが、今回はもう一つのポイントである「現状否定」について取り上げます。
変化・改革が求められている時代です。平常時であれば、これまでの制度や規程、慣習、やり方、しくみなどが効率的であったわけですが、いわば非常時ですから、それらが阻害要因になる場合が多々あります。ですから、改善・改革では過去の成功体験や延長線上で考えるのではなく、これらを一旦捨ててゼロにリセットする、現状否定の発想、意識が非常に重要となってくるわけです。
■“やめてしまえ”発想
現状否定、強制思考の大きな特徴のひとつに“やめてしまえ”発想があります。
“やめてしまえ”。
いかがですか?非常にインパクトのある言葉ですね。目的思考、現状否定、強制思考、過去との絶縁による“やめてしまえ”の発想の意味するところは、無用・低価値・重複業務といったムダな業務は、減らすとか効率化するというのではなく、ともかくやめる、廃止するという強制思考です。ムダな業務はいくら効率化してもムダなのです。
あくまでも“やめてしまえ”であって、現状否定の思考です。業務をやめるということは、書類の作成、伝達、保管など業務処理の一切がなくなり、事務コストが“ゼロ”になることを意味します。しかしながら、ひと口に“やめてしまえ”といっても、そこに何らかのよりどころがなければ改善に取り組みにくいものです。そこで、次のような6つの視点を設けています。
“やめてしまえ”発想を促す6つの視点
それでは順にみていきましょう。
①その業務は無目的ではないか
「その業務の目的は何か」と改めて問い直されると、目的そのものが見当たらないか、あってもはなはだ曖昧な場合があります。ともかく、まず「目的は何か?目的は本当にあるのか?」で、業務をとらえていくことが大切です。
②その業務は目的を誤っていないか
よく“分析倒れ”という言葉を聞きます。例えば、分析資料で「現状はこうなっています…」ということのみを明らかにして終わっている業務があります。「現状を調べる」のが目的と思っているのではないでしょうか。これは、明らかに目的を誤っている業務といえます。本来の目的は、例えば仮説を検証するために分析し、分析結果に基づいて何をどうすべきか、あるいは原因を明らかにして対策を講じる、などのはずです。
③当初は目的があったが今はどうか
初めのうちは確かに目的があったのですが、今はもう目的を果たしてしまっているにもかかわらず、業務だけが依然として残っている場合があります。例えば、「○○定例会議」などがよい例です。当初は問題が多く、関係部門が集まって協議して解決にあたらなくてはならなかったのですが、今では問題もかなり解決されており、経験も豊かになったので、協議して問題を解決する必要ははるかに少なくなりました。しかし、その会議は当初と同じように繰り返されているケースなどです。
④同じ目的ではないか
異なった部門で、「同じ目的」のために似たような行為・行動をしている業務がしばしば見られます。これらの多くは重複していることが多いものです。責任をもつべき部署を決め、他の部署はやらなくて済むよう協議して、 “やめてしまえ”に踏み切ることです。
⑤目的は異なるが似たようなことをしていないか
先ほどの④とは反対に、目的はそれぞれ別々にありますが、行為・行動がよく似ている場合は、行為・行動を一つに絞って他はやめてしまおうと考えてみましょう。目的はそれぞれ別々でも行動が類似している場合は、例えば一人で複数の目的を集約して行うことで、行動の重複を省いていきます。
⑥今までの習慣の延長ではないか
改めて業務の目的を考えることなく、従来からの仕事のやり方だけをそのまま踏襲しているような業務には、「過剰」「重複」「無用」が含まれていることが実に多いものです。例えば、各種の業務依頼書、通知書、通達書、伺い書、およびその他の資料…。これらは企業の「決まり」「手続き」ということで、改めて目的を考えることもなく、何となく習慣でそのまま続けられている業務が意外に多くあるものです。
まずこのような視点での「やめてしまえ発想」を第一歩として、現状否定に取り組んでみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介した内容はWebアカデミーで取り上げています。詳細については以下のサイトでご覧いただけます。
http://web.tac-school.co.jp/cfo/course/cpd_043.html