企業における防火・防災に関する諸問題とその対策 第3回:工場・倉庫火災による被害拡大危機の要因とその問題点<後編>
文責:ニュービジネス開発事業部 防災技術コンサルタント(元、政令指定都市消防署長) 松田 雄治
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■③法的規制の枠組みの限界
前回は、最初に工場や倉庫で火災が発生した場合、その被害が拡大する主な要因としての①工場・倉庫の規模(一棟の面積や体積)の拡大②既存施設の既存不適格と施設・設備の老朽化をご紹介しました。今回は、③法的規制の枠組みの限界についてです。
消防法では、立体倉庫を除いて通常の倉庫の場合は、規模に関わらず消火設備に関して屋外消火栓設備か、屋内消火栓設備の設置が義務付けられるだけです。このことは工場についても同様です。最近の傾向から見ますと、倉庫については前に述べました通り極めて大規模化し、また工場も大規模工場が多く見られます。このようなところで火災が発生した場合、火災覚知からの初期対応が遅れ、消火器による初期消火を失敗すると、多くの場合、火災の拡大による多量の煙の発生で、屋内・屋外消火栓による人的な初期消火活動は極めて困難になります。その場合、公設消防の消火活動により延焼拡大を防ぐしか方法はないのですが、早い発見と通報連絡により公設消防の到着が、被害拡大前でなければ、期待通りの結果を得ることはできません。消防隊の到着時、すでに建物内に濃煙と熱気が充満しているような状況であれば、建物内部にある各種設備や貯蔵・取り扱われている物品等による活動障害もあり、空気呼吸器を装着し、十分な装備をしていても消防隊が建物内部に進入し消火活動することは非常に危険であり、事実上消火することは困難となってしまいます。消防隊は他の棟への延焼拡大を阻止するための消防活動をするしかなく、結局火災発生の建物の火災被害の拡大を阻止することはできないのです。これは、最近の同種の火災事例でも同様の結果となっています。
結局、現行の基準ではこのような大規模空間で可燃物が多くあるような建築物については、初期対応の消火設備としては、最も信頼性の高いスプリンクラー設備等の固定式の自動消火設備を必須とされていないことから、屋外や屋内消火栓設備による消火に頼るしかないことになります。しかし最近の事故事例に示されている通り、初期消火の失敗する可能性も多く、その場合、莫大な代償を払わなければならない結果になります。この種の倉庫については、アメリカではスプリンクラー設備が主役であるといわれていますが、我が国の現行法令ではそこまでの規制はなされていません。これがハード面での法令規制上の枠組みの限界であり、これ以上の対応はソフト面の人的対応として、事業所の自衛消防隊の迅速かつ適切な対応に期待するほかないというになります。しかし、この対応が必ず効果を収め得るかについては、過去の多くの火災事例からも極めて疑問であると言わざるを得ないのです。
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