グローバル展開の現場から|海外でよくある問題と対応|第十一回 監査の重要性
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉
今まで、10回に渡って、海外で発生する問題と対応について述べてきた。今回は、これらのまとめとして、このような事態を発生させないために、本社機能の一つである監査と事前の教育の重要性について述べることにする。先般、日本を代表する大手の電機メーカーでの不正会計処理問題が話題になったが、これも、本来であれば、適切な監査機能が働いていれば防げたのではないかとも思われる。実際に色々な経営事故が発生する前に、その芽を摘んでおくことが、グローバルに経営推進する上で大切なことと言える。
◆管理事項の明確化
いずれの企業も、海外各社の経営数値や品質データ等については、毎月確認している。しかし、それを見ているだけでは、問題に気付けないというケースは結構多い。いつの間にか滞留在庫を抱えていたり、また、滞留債権を抱えていたりしたりどうなるだろう。これらは、B/Sの数値だけを見ていても、内訳が記載されていなければ、在庫が少し多そうだなとか、売掛金が少し多いような気がするが・・・程度の気付きができればよいほうで、ある程度、計画の利益が計上できていれば問題無し、と見逃してしまうことが多い。実際、本社側で海外各社の管理をしている部門が、キャッシュフローをわかっておらず、売上と利益しか見ていなかったために、ある日突然、資金が回らないので、借入にあたって親元保証をして欲しいと依頼がきて、初めて不良債権の山になっているという問題に気付いたという事例もある。
このようなことにならないためには、海外子会社を管理する上で、何を管理すべきかを明確にしておくことが大切だ。また、これらは、日常、海外各社が管理事項として確認すべき事項でもある。例えば、滞留資産(定義が必要だが)の状況や、未回収債権の内容等は重要な管理事項として現地での管理と共に本社にも報告される必要がある。さらに、結果の決算では間に合わないので、先手で資金や利益の見通しを出し、事前に対策を打てる仕組みを作ることも大切だ。言い換えれば、これらの管理ができるように、先ずは、管理事項や管理の方法を明確にし、全社的に統一して管理できるようにすることが、大切と言える。
◆監査の重要性
併せて、数字等の報告だけでは、適切な経営推進が図られているかどうかはわからないので、定期的に、現地に出向いて、現場・現物・現実で確認することが大切だ。実際、現場を確認してみると、適切な棚卸がされておらず、不明な在庫や、あるべきものがないということがあったり、協力企業に無償で支給している材料の管理が杜撰だったり、遊休設備が放置されていたり、固定資産台帳の整備が不十分だったり・・・と、経営数値には表れていない問題が発見されることが多い。また、それらを調べていくと不正が見つかることもある。J-SOX対応を含めて内部監査の体制を整えられている企業もあるが、正直、人材不足やコストもかかることから、現地の監査が適切に行なわれていない企業は多い。また、体制ができていても、監査内容が今ひとつという例もある。
この原因には、経営の基本が理解されていないというケースが多い。例えば、キャッシュフロー経営の基本ということからすると、先ずは、B/Sの健全性を確認することが必要となり、現金の管理から売掛金の内容、棚卸資産の状況・・・と、現場でこれらをチェックしていく必要があるが、基本がわかっていないと場当たり的なチェックになってしまうからだ。また、海外でよくある問題を踏まえて、監査項目を設定しておくことも大切だ。
◆事前教育の重要性
実際、グローバル化を図るには、経営の基本については、出向前の事前の教育と共に、グローバル本社としての役割を担う方々も含めて、しっかりと勉強する場を作ることが、海外で問題を発生させないためには重要と言える。今、ジェムコ日本経営では、海外出向される方々への研修を多数実施させていただいている。もし、これらが十分できていないと感じられる企業様は、是非、お声掛けいただきたい。海外で発生した数々の問題事例も交えて、経営の基本から工場運営の基本等、海外出向される方が身につけておくべき事項をおさえた研修になっている。