グローバル展開の現場から|海外でよくある問題と対応|第九回 リスク対策について(その3)
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉
前回は、災害が発生した時に備えた保険の付保について述べた。今回は、安全リスクへの対応について述べることにする。日本は世界の中では極めて治安の良い国だけに、日本からの旅行者を見ていると、安全に対しての意識の低さに驚くこともあるが、海外に赴任する場合は、事前に安全対策についての徹底も大切だ。
◆その国の治安情報を踏まえた日頃からの対応
国によって、治安は異なる。従って、渡航前には、外務省の海外安全ページ等で、赴任国の治安情報や対策等をよく読んで、現地事情を理解して赴任することが大切だ。特に、治安の悪い地域では、安全対策についてまとめた資料を提供している大使館もある。どのような住居にすべきか、寝室への施錠の必要性、行動を予知されないようにすることの大切さ、また、強盗にあった時を想定して、お金が渡せるようにしておくといった種々の注意喚起がされている。それらについては、事前に十分目を通しておいていただきたい。
ところで、筆者が最も重要だと思っていることは、それらの情報を踏まえ、どれだけ日頃から安全に心がけた行動をとるかということだ。それだけで、身を守れる確率は随分と高くなる。
基本は、どういう時に狙われやすいかを理解し、それを踏まえて「狙われやすい状態を作らない」、また、「狙われやすい時間を短くする」ように日頃から心掛けることが大切だ。例えば、車に乗っている時であれば、襲われるのは停車時が大半だ。ということは、赤信号の時でも、できるだけ停車しないように、早めにスピードを落としてノロノロでも動くような運転をする。また、乗り降りする時が危険なので、必ず、周囲を確認する癖をつける等、日頃から些細と思われることにも気を使うことで、身を危険にさらす確率はかなり落とすことができる。
日頃から被害にあわないように意識して行動することが大切であり、自分の身は自分で守るという意識を忘れてはならないということだ。
随分以前の話しなのだが、ある国に出張した時に、現地で案内してくれた方が、「できるだけ警察官が立っている通り」を通るようにしているという話しをされた。「それは、警察官がいる方が安全だからということなのですね」と言うと、そうではなく、「警察官は自分の身を守るために安全なところにしか立たないからですよ」と笑い話のようなことを言われたことを今でも覚えている。その国で生活するには、どこが危険かを知り、それに対応した行動をとるということしか身を守る方法はないということだ。
◆比較的安全と言われる国でも身の危険にさらされるということも
ところで、治安が比較的良いとされる国でも、身が危険にさらされるということがある。少し前になるが、タイで日本人の工場長が帰宅途上の車の中で、拳銃で撃たれたという事件があった。このような事件の発生は恨みによるものが大半だ。
注意しておきたいことは、例えば、廃棄物処理業者等は反社会的勢力の組織の一員であったりすることが多い地域もあり、そのようなところでは、現地事情のわからない日本人が表に立つべきではないということだ。きちんとした廃棄処理をしていないのではないかとか、引き取り単価や重量をごまかしているのではないか等の疑問から、業者を変更しようというような動きを日本人出向者が表に立ってやると恨みをかい、身の安全が脅かされるということにもつながる。このあたりの関係は、実はローカルメンバーならよく知っているはずであり、先ずは、日頃からローカルメンバーとのコミュニケーションをしっかりとり、ローカルに任せるべきことはローカルメンバーに任せるということが大切だ。
今、日系各社は、新興国はじめ新たな国々への進出を加速している。貧富の差の激しい国であれば、それだけ身の危険が増すケースも多くなる。身の安全を守るためには、先ずは、現地事情をよく理解し、それを踏まえた行動をすることだ。また、日頃からローカルメンバーとのコミュニケーションを図り信頼関係を築くことが大切だ。ローカルメンバーとの信頼関係が築けている人であれば、ローカルが教えてくれたり、助けてくれるということが多いからだ。これらは、現地で仕事をさせていただく上での基本でもある。