グローバル展開の現場から|海外生産する時の注意点|第四回現地化の重要性/企画・開発・品質評価の現地化
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉
前回までは、海外で生産するにあたって、日本の生産方式をそのまま海外に持ち込んで失敗した事例を示しながら、現地事情を踏まえて、変えるべき点を明確にし、どう対策すべきかを解説してきた。これらの例から気付かれたと思うが、海外事業を成功させるポイントは、現地事情を理解し、それを踏まえて、どう「現地化」するかにあるということだ。今回からは、この点について述べていきたい。
◆商品企画の現地化
日本の製品は、品質も機能も良い。だから日本の製品を海外市場に持ち込めば売れるはずだと考える人は、流石に無いと思うが、現地のニーズや現地での使われ方を十分に把握されないまま、市場導入して失敗している例は多い。
先ずは、現地のニーズをどれだけ事前に把握できているかである。BtoCの商品であれば、適切な市場調査をすることで、どんな機能・仕様・デザイン・価格が求められるかは調べやすい。BtoBの材料や部品、ユニット等であれば、ターゲット顧客に事前にどんな製品なら採用してもらえるかをしっかりとヒアリングしておくことが大切だ。
新興国などでは、導入期にある商品の場合、購入できる価格をベースに、基本スペックと、わかりやすい訴求ポイントを満たした商品がヒットするケースが多く、日本で売れている高機能商品は全く売れないことが多い。わかりやすい事例としては、インドのエアコンだ。当初はインバーターエアコンなどは見向きもされなかった。セパレート型で、ガンガンと冷たい風が出るという現地独自仕様の商品が売れた。まさに、現地ニーズに合った価格とスペック、わかりやすい訴求ポイントを持ったものが売れたのだ。完成品メーカーからの進出要請で海外に進出した部品メーカーで、事前に聞いていた計画から大きく販売が落ち込んだというケースがあるが、これは明らかに完成品メーカーが事前に顧客ニーズを把握できていなかったことによるものである。
また、ある新興国では、日本で最新とされたデザインを導入したところ全く受け入れられず、ローカルのデザイナーがデザインした商品が大ヒットしたという例もある。これは、服装や住宅事情を含めて、ものに対する価値観やデザイン感覚が違うことに起因する。このように、市場が変われば、ニーズも違うのは当たり前のことであり、日本で売れているから海外の各市場でも売れるということにはならないということだ。すなわち、海外市場で真に海外のお客様に喜んでもらえる商品はどんなものか、現地に即した商品企画が必須ということであり、そのためには、商品企画の現地化がポイントになるということだ。
◆使われ方もマチマチ・・・使用条件がわかっていないと品質不良にもつながる品質基準の現地化
同じ商品でも、使われ方や使用条件は、その国によって異なる。実際、気温や湿度などは、国によって全く異なる。また、水質や電力事情、道路条件も異なる。日本と同じ条件というところはほとんどない。当然のことながら、品質基準は、使用条件によって変更されなければならない。しかし、この使用条件の違いが意外に的確に把握されていないケースが多い。わかりやすい例で説明しよう。洗濯機は、日本での使い方は汚れを落とすということに主眼が置かれる。しかし、新興国では、泥だらけの服を入れて洗うという使い方がされる。泥だらけの靴を洗うこともある。このような使われ方をする場合、品質基準はどうないといけないだろうか。泥が大量に入れられても問題ないという品質基準が満たされることが必要だ。泥は細かい砂や石なので、やすりと同じである。回転するものの中に「やすり」が入れられるということであり、耐摩耗性の基準を根本的に変えないと不良になってしまう。また、置かれる環境の違いも大きい。室内に置かれるか、室外に置かれるかで全く違う。塩分の多い水質のところであれば、錆への対策も必要になってくる。日本と海外とでの生産条件の違いのところでも触れたが、道路事情の悪いところであれば、振動試験の基準を変更する必要があるし、梱包仕様を変えないといけないケースもある。海外で商品を販売するということは、これら、現地顧客のニーズと共に、使われる環境、使い方すべてが熟知できていないと、適切な仕様、品質は確保できず、日本のメーカーであれば品質は良いという神話は、すぐに崩れることになる。どんな使われ方をされるのか、これは、現地のメンバーでないと把握することは難しいだけに、現地化が大切ということだ。
◆企画・開発・品質評価の現地化
これらのことからわかるように、真に海外で販売拡大を図っていくためには、企画・開発・品質評価の現地化が必要ということになる。これは、商品開発ということに留まらない。コストダウンを図る上で、現地調達化は必要不可欠だが、これら現地材料を使うためには、現地での使われ方を踏まえた品質評価や、現地材料を使える設計変更にも取り組んでいかないといけない。さらに、BtoB事業の場合、現地のローカル企業に売り込んでいくためには、現地で、これらに対応できる技術者の育成は必要不可欠になってくる。今、各国では、R&D拠点に対する税恩典のある国も多くなってきており、製造拠点に続いて、R&D拠点の設立に取り組まれている企業が急激に増えてきた。真にグローバルで成長拡大していくためには、企画・開発の現地化は必要不可欠であり、グローバル戦略では、単に製造拠点の海外展開ということだけではなく、グローバル戦略を実現するための鍵にもなる、企画・開発の現地化についてもしっかりとした絵を描いて推進していくことが大切と言える。
次回は、人の現地化について述べることにする。