グローバル展開の現場から|海外生産する時の注意点|第三回現地事情を踏まえた生産体制の構築
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉
前回までは、海外で生産をする場合、日本の生産方式をそのまま持ち込むと失敗することがあるということ、また、その原因は日本と海外との生産条件の違いにあるということ、そして、そのような問題を起こさないためには、日本と海外とでの生産条件の違いを踏まえ、事前に生産に支障を及ぼすと考えられるリスクを整理し、事前にそれらリスクに対応した生産システムを検討することが大切ということを述べた。
今回は、これら生産条件の違いへの対応例を示すことにする。
◆人の入れ替わり対策
人に関する違いの中で多いのは、人の定着率の違い、言葉(含む多言語)の違い、識字率の違いがもっとも多い。第一回で紹介したタイでのワンマンセル生産を導入して失敗した事例はその代表例である。人の入れ替わりが激しいところでは、多くの時間をかけてトレーニングを行なうのは難しいということである。従って、一人で行なう要素作業数をいかに減らした工程設計にするかが重要となる。弊社のコンサルタントが指導したように、コンベア方式に戻したのは適切な判断なのだ。また、難しい技能を必要とする作業は自動機を入れることも検討が必要だ。一般的には、新興国では、人件費は日本と比較すると極めて安く、自動機より人による作業の方がはるかにコスト面からは有利だ。しかし、人の入れ替わりが激しいところでは、技能習得に時間がかかる作業については、自動機を導入することも検討することが必要になるということだ。
◆動画マニュアルの活用
また、識字率の低い国もある。このような国で生産する場合は、標準作業書をはじめとした各種のマニュアルを作成しても、内容が理解されないことになる。そのような中で正しい作業指導をするためには、文字を使わず、マニュアルを作る必要がある。基本的に、海外展開をする場合、筆者は動画マニュアルを作ることを推奨している。各種のマニュアルを現地の言葉に翻訳しても、専門用語もあることから正しく翻訳されないケースが多い。動画であれば、一連の作業の流れが理解でき、注意点や作業のコツを編集ソフトでマークや矢印等を入れることで伝えやすい。また、失敗した時にはどうなるか等も動画で示すことで、標準作業書だけでは記載しきれないことも表現できる。標準作業書に写真と共に注意点やコツを記載するよりも、動画の方が音を含めて表現できるので、伝えられる範囲は広い。特に、失敗した時や異常と場合はどうなるかの表現には、音も伝えられることは極めて有効だ。また、何回も動画を見ることで、標準作業のイメージトレーニングもでき、標準時間のイメージもつかめる。また、チェックシート等は写真や図で文字が無くてもわかるシートにすることが大切だ。
◆メンテナンス体制の構築
自動機等を導入する場合は、メンテナンス体制を確認しておくことが大切だ。現地では、すぐにメンテナンスできないケースは多い。補修部品の供給体制やメンテナンス業者がない場合は、自前でメンテナンス部品を適切に発注管理できる体制と共にメンテナンス要員の育成を、事前に行なっておくことが必要となる。筆者が診断をした東南アジアのある拠点では、日本と同じ搬送設備まで自動化した全自動化ラインを入れていた。立ち上げ時は、日本人が来て立ち上げたものの、その後、設備トラブルが多発し、全く生産ができない事態になっていた。これだけの自動化設備を導入したにもかかわらず、肝心のメンテナンス体制が全く築かれていなかったため、一台でも設備トラブルが発生すると、全部の生産が止まるだけではなく、工程仕掛品がすべて不良になっていたのである。実際、現地と日本との違いを踏まえれば、このような全自動のラインを導入するということはなかったはずだ。第一、搬送まで自動化したことで、搬送設備のトラブルで加工ラインまで含めてすべてのラインがストップするだけでなく、人件費から判断しても、このような全自動化はコスト面からも不利である。日本と海外とで、人件費の違いやメンテナンス体制の違い等を踏まえて検討されていれば、このような自動化ラインを導入するという判断はなかったはずだ。
これらの例のように、海外で生産するには、生産条件の違いを踏まえて、リスクを明確にし、それを踏まえた生産体制を築くことがポイントということだ。
海外で事業を展開するためには、現地の事情をいかに理解しているかが基本となる。これは、今回紹介してきた海外生産における生産条件の違いということのみならず、製品そのものに対する要求品質も異なれば、使用条件も異なるということであり、品質基準等も変えなければならないということを示している。
次回は、海外でオペレーションを進める上で重要となる「現地化」について述べることにする。