人と組織の活性化│働き方改革の本質(3)
文責:ジェムコ日本経営 取締役 小倉明男
今回は「働き方改革」の本質の3つめのテーマ「関係性の向上:思い込みの罠」ということについて取り上げてみます。
◆妙齢のご婦人達の会話から
よく電車内やファミレスなどで出くわすオバさん3~4人の会話です。
「ねえ、聞いてよ~。A子さんたら昨日B子さんにこんなこと言っていたのよ」
「私も聞いたわ、信じられないわよね~」
「私なんかA子さんにこんなこと言われたのよ~」「え~!ひどいわね…」というものです。
話を聞いていると、A子さんはとんでもない人のようにも思えてくるのですが、だとすると、会話の当事者3~4人と、1人のとんでもない人がいる構図になります。
果たして本当にそうなのでしょうか。もしそこにA子さんがいたら、何と弁明するでしょうか。
人は、本当はこうしたいと思う理想の姿があるのですが、自分の努力不足や怠惰が原因でそれがやれなかった(やらなかった)時、自分を正当化するために、他のことの理由や他の人のせいにする傾向が強いらしいです。
先程の女性たちの会話から想像すると、たとえA子さんは正論を話していたとしても、何らかの理由でそれができない女性たちが、A子さんの性格や言動のせいにして、なおかつ同調者(A子さんは悪者)を増やしている、というそんなシーンなのかもしれません。
◆事実と真実
世の中には事実は一つしかありませんが、真実(事実を受け止める人の価値観と感情を含めたもの)は人の数だけあります。
争いは真実と真実のぶつかりあいです。どちらも自分側の立場では「絶対正しい」のです。世の中の争い事はすべてこれだと言ってもよいでしょう。
それを「お前は間違っている」「あなたこそ違う」と言い合えば言い合うほど、感情的になり、「あいつはダメ」「あの人はひどい人」などのレッテルを張って、もう話を聞こうともしなくなります。つまりこれは“思い込み”です。
◆自分の世界を狭める“思い込み”
こうして人は“思い込み”の世界で自分の世界を狭めていき、「俺はツイテいない」「環境が悪かった」「上司・会社・友達に恵まれなかった」などと、
自分のことはさておき、外部環境のせい、悪さにしてしまいがちです。こういう人は仕事のパフォーマンスも上がりません。
◆何を言っているかより、何をやっている人かが大切
仕事ができる人を見ていると、コミュニケーションがよく、不平不満は言わず、人の悪口は言わない、約束を守る、嘘はつかない、進んで嫌な役回りをするなどの共通点がみられます。そうでない人と何が違うのでしょうか。
仕事ができる人は、他の人や全体の状況を偏ることなくはっきりと見ています。他の人をあるがままに、自分と同じ人間、同じ様なニーズや望みを持った人として、
まっすぐに見ています。何よりも、自分でこうしたことを実践していることが大切です。
その人が何を言っているかではなく、何をしている人かが大切なのです。こういう人のところには、一緒に働きたいと人が集まり、おのずとうまくことが運びます。
◆かけがえのない仲間の長所を見る
このように、自分の価値観で人を見るのではなく、かけがえのない一人の人間として見れば、必ず長所や個性に気付けるはずです。
ある大手印刷会社で、営業部門のミーティング研修を実施した時の最終報告会で、各メンバーからの感想発表を聞いたのですが、同じ営業部門の部長と新人のコメントが次の様なものでした。
部長
「ミーティング研修前は、A君のことを全くやる気のないチャラチャラしたダメ人間だと思っていました。今回のミーティングを通して彼と話をして、
こんなに優秀でポジティブな人間がうちの部にいたと初めて気がつきました」(実際の言い回しはもう少し配慮されていますが、このような意味合いでした)
A君
「ミーティング研修前はいつも怒られていてばかりで、部長の話がさっぱり分からずどうしていいか悩んでいましたが、このミーティング研修を通して、
部長が言われていることの意味や、私に期待されていることがはっきりとわかりました」と。
研修により人の見かたや価値観が非常に劇的に変わった事例ですが、皆さんの身の回りにもあることではないでしょうか。
つまらない“思い込み”でかけがえのない仲間を「ダメなヤツ」「つまらないヤツ」と決めつけていませんか。
◆組織における信頼関係が業績を上げる
とはいえ“思い込み”に気付くことは至難の業です。それは、自分の思考の枠組みであり、そこを自ら越えたり壊したりできないのです。
例えば居心地のよい自分の部屋の壁を壊したり、屋根を取っ払う様なことであり、自らやることは簡単なことではありません。ではどうすればよいのでしょうか。
まずは、異質なものを受け入れてみることからではないでしょうか。世の中では「ダイバシティー」と騒がれていますが、
これは何も外国人や女性を受け入れようということだけではなく「多様性の受容」ということです。
異質なものを取り入れて組織生産性を高めようというものです。まずは先入観なしでいろいろな人の話を聞いてみませんか。
仕事を効率的に進めるためには「組織における信頼関係」といったインフラが不可欠です。お互いがそれぞれの価値観を知り、信頼し合っていることで良い連携がうまれ、
お互いのミスを補い合い、そこにそれぞれの経験とスキルも加わって、成功の度合いを大きくすることができます。
企業業績を上げるために経営戦略や組織改革が論議されがちですが、本質的な部分としては、この信頼関係が構築されているかどうかが大切な部分だと思います。
人間同士の関係性が深まることで連携が深まり、発想が広がり、モチベーションが高くなります。
当然モチベーションの高い連携の取れた組織は、結果として業績が良くなるはずです。
今回のコラム「働き方改革」をシリーズ通して読んでいただけると
1.夢を持った集団が
2.主体的に
3.仲間とスクラムを組みながら働いて強い集団になります
ということになります。
次回は「思考の変化」というテーマです。