日々挑むコンサル『五省』の呟き|第四回『ムダは誰のためにもならない?!』
文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 五省太郎
今回は、弊社の「改善・改革の哲学」の一つである『ムダは誰のためにもならない』についてご紹介したいと思います。この時期、企業の多くは来年度予算検討で、購買・製造・物流・間接部門等では、コストダウン額をどうするかの合理化予算策定において頭の痛いところではないでしょうか?
本社や経営サイドから、「どれだけ、いくら効率化できるんだ!」「まだムダがないか!」「生産性をもっと上げられないか!」等々、毎年のことと言え、いささかうんざりされている管理職の方も多いかと思います。特に購買先や外注先、物流委託先等の相手がある部門は、相手を説得し、交渉する必要があり、仕事とはいえ心身ともに大変です。なんらかの「理念」や「心の支え」がないと継続的に取組むことは難しいと思います。
そこで、ムダ取り・生産性向上等の効率化を「なんのために」するかということを、改めて考えてみたいと思います。「そりゃー収益向上や競争力強化等の経営基盤強化だよ!」という答えが多いのではと思いますが、それは間違ってはいませんが、効率化の本質ではありません。なぜならば、それは会社の立場であって皆さん個人の励みとして、その答えが心の支えになっているとは思えないからです。
■ ヘンリー・フォード
かの有名なヘンリー・フォード(1863-1947)は、「庶民でも買える自動車を何とか製造できないか?!」という素朴な想いといかに安く造るかというイメージによって大量生産を可能とする「ライン生産方式」を考案しました。そこには、「世のため人のために」という純粋な想いが原動力であり、心の支えであったと筆者は考えます。ちなみに、フォード・システムあるいはフォードイズムと言われる生産システムは、コンベアの速度が生産能率を決めるという仕組みであり、製品の単純化・部品の共通化・作業の標準化等と併せて生産性・生産高に比例し、賃金も上げるという仕組みであり、モチベーションにも配慮したもので、自社の労働者が自社の自動車を購入するということを実現したのであります。
従って、効率化は何故やるか?というのは、世のため人のため、全人類のためであると言えます。私達が自動車・家電等を所有し、便利で豊かな生活を享受できているのも効率化のお陰なのです。我々コンサルタントも、会社サイドの目的や立場を目標にした目先のコストダウン活動になりがちですが、効率化の理念や本質について、もっと議論し、考える必要があると深く感じています。ちなみに弊社創業者佐藤良がフォードのクリーブランド工場を訪れた時、早速そこのインダストリアルエンジニアを紹介してもらい、彼に「フォードイズムとは何か?」を訊くと、「フォード一世が言っていたのは『人を動かすな。物を動かせ』ということであって、人間はいくら動いても付加価値を生まない。人間は付加価値を加えるだけで良い。物の運搬はコンベアその他で次の作業者へ送り届けることを徹底してやるということではないか」との答えが返ってきとのことです。
■ フレディレック・テイラーとフランク・ギルブレス
フォード・システムを可能にしたのは、フレディレック・テイラー(1856-1915)が提唱した「科学的管理法」という基礎があったからであり、その「時間研究」や「動作研究」により、生産性を向上させるための生産技術・生産方法・工程管理・治具等を開発し、飛躍的な効率化を実現したのです。
また、動作研究の先駆者であるフランク・ギルブレス(1868-1924)は、作業者の動作の詳細を調査し、職務単純化や有効な標準作業化、インセンティンブ賃金制度の基礎を築いたのであります。ギルブレスの思想や考え方で我々が学ばなければならないことは、『人と仕事との尊厳に対する敬意』を背景に発想したことであり、レンガ職人だった彼は、個人差のあるレンガの積み方を記録・観察し、最も効率的な方法を割り出し、効率とは雇用者と従業員の双方に利益をもたらすと気付き、雇用者にとっては積上げるレンガの数が増え、従業員にとっては作業負荷・ストレスが軽減され、疲労やケガのリスクが低減するというメリットを発見したのであります。
■ 「ムダは誰のためにもならない」は本当である!
弊社創業者佐藤良から伝わる話として、日本の能率学の研究者に対してギルブレスは、「工場では大勢の作業者が汗を出して無駄な仕事をしている。これは見るに忍びないんだ」と言い、「工場の作業者は多くのムダをもって作業しているが、このムダは作業者のためにならない。引いては会社のためにならないということだ。会社のためにならないということは、社会のためにもならない。社会のためにならないということは、全人類のためにもならない」という話をされたそうであります。その研究者が「佐藤君、君自身も単なる原価低減のためだけにやっているのではないことを知るべきだ。『ムダは誰のためにもならない』ということは人間として重要な基本的精神なんだよ」と教示して下さったというエピソードが残っております。このことにより佐藤良は、改善というのは世の中のため、全人類の幸福のためになることであると大いに自信を深め、また心の支えを得て、その後、誇りを持って改善道(つまりコンサルティング・ビジネス)を歩む大きな契機となったと述懐していたとのことです。
弊社のコンサルティング事業は、創業者佐藤良のこの「哲学」に則り世のため人のために貢献するために存在意義があると筆者は強く思うのであります。
■ 温故知新
今回は、フォード、テイラー、ギルブレスという3名の20世紀の偉人・思想家を取上げましたが、筆者が皆様にお伝えしたかったことは、新しい改善・改革活動を取組む際には、先人あるいは古典をもう一度調べ直し(これが温故)、そしてその上で新たな道理や知識を見出して対策案を検討する(これが知新)ことが大事ではないでしょうか!ということです。実際、筆者がコンサルティングしている現場においては、効率化のための時間研究・動作研究を地道に実践し、標準時間や標準生産性を設定し、合理的かつ論理的な適正コストを導くことをしています。
今回、最もお伝えしたかったことは『なんのために』効率化をするのかということです。根本的・本質的なことを携わるメンバー全員と共有し、会社や部門の立場ではない見方で評価するということが大事に思えてなりません。先に発覚した食品表示偽装問題も、原価低減のために原材料を廉価品に置換したと思われますが、消費者に対する誠意や満足度に気付き、世のため人の幸福のためにという考えに及べば、絶対に起こりえなかったことではないでしょうか。
コンサルティングの現場において、コンサルタントは常に「なんのためにそれをやるのか」ということを正しく伝え・理解していただきながら改善活動をしなればいけないと強く思う今日この頃であります。
次回(#5)は(仮題)「人づくりと論語 -人こそ最高の宝である?!-」について述べたいと思います。
*五省とは・・・
一、至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか(真心に反する点はなかったか)
一、言行に恥ずる勿かりしか(言行不一致な点はなかったか)
一、気力に缺(か)くる勿かりしか(精神力は十分であったか)
一、努力に憾(うら)み勿かりしか(十分に努力したか)
一、不精に亘(わた)る勿かりしか(最後まで十分に取組んだか)
昭和7年 海軍兵学校校長の松下元(まつしたはじめ)少将の発案。毎日の自習終了5分前に瞑想し、その日の自分の行動を省み、深く自己を見つめ、自省自戒したといわれている。つまり、他部門や他人のせい(他責)にしてはならないということ。コンサルタントの基本心得であり、「立派な人間」としての基本的な資質でもある。
【注記】守秘義務の関係もあるため、このコラム内容は、かなり一般的な話題に置き換え架空のものに編集しております。起こっている事象はよくある内容でありますが、内容の詳細については、ノンフィクションの読み物であります。予め、ご了承下さい